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福岡地方裁判所 昭和43年(行ウ)69号 判決

原告 平田長雄

〈ほか六名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 谷川宮太郎

同 吉田雄策

同 福井泰郎

同 鈴木紀男

同 鎌形寛之

同 武子暠文

同 藤原修身

同 古川太三郎

同 生井重男

同 田中巌

同 中村経生

同 千場茂勝

同 荒木哲也

右谷川、吉田訴訟復代理人弁護士 石井将

被告 北九州市長谷伍平

右訴訟代理人弁護士 苑田美穀

同 山口定男

同 立川康彦

右指定代理人 篠木幹夫

〈ほか三名〉

主文

一、被告が原告平田長雄に対し、昭和四三年二月九日付でなした懲戒免職処分を取消す。

二、その余の原告らの請求はいずれも棄却する。

三、訴訟費用中、原告平田長雄と被告との間に生じたものは、被告の負担とし、その余の原告らと被告との間に生じたものはその余の原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

1  被告が原告らに対し、昭和四三年二月九日付でなした別紙職種等目録処分欄記載の各懲戒処分は、いずれもこれを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

(本案前の申立)

「原告松木の訴えを却下する。」との判決。

(本案についての申立)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告らは昭和四三年二月九日当時北九州市(以下単に「市」という場合は「北九州市」をさす)に勤務していた職員で、同市職員で組織する北九州市職員組合(以下「市職」という)に加入していたが、昭和四二年一二月当時の所属部課、職種および組合役職は別紙職種等目録記載のとおりである。

2  被告は原告らに対し、昭和四三年二月九日付で別紙職種等目録処分欄記載の各懲戒処分(以下「本件処分」という)をなした。

3  しかし、本件処分は何ら正当な処分事由がないにもかかわらずなされた違法なものであるから、その取消を求める。

《以下事実省略》

理由

第一、被告の本案前の抗弁について

《証拠省略》によれば、原告松木は本件処分につき北九州市人事委員会に対して不服申立をしていたが、昭和五二年八月四日右申立を取下げたことが認められ、被告は、右取下により原告松木の本件訴は地公法五一条の二の訴願前置主義に違反し不適法である旨主張する。しかし、行政事件訴訟法八条二項一号は、審査請求があった日から三ヵ月を経過しても裁決がないときは、裁決を経ないで処分の取消の訴を提起できる旨規定しており、右要件は取消訴訟提起のときに存在すればよく、訴訟提起後に審査請求を取下げても既に提起された訴の効力に影響を及ぼすものではないと解すべきところ、《証拠省略》によれば、原告松木は本件処分につき昭和四三年三月一五日北九州市人事委員会に対して不服申立をし、同年六月二四日本件訴を提起したものであることが認められるから、同原告の本件訴は適法なものというべく、被告の右抗弁は採用できない。

第二、本案について

一、請求原因1および2の事実については、当事者間に争いがない。

二、そこで、被告の抗弁につき検討する。

1  本件争議行為に至る経緯

(一) 病院、水道事業の財政再建計画の策定

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(1) 昭和三八年二月一〇日発足した北九州市は、折からの石炭および鉄鋼産業の不況に伴う税収入の増勢の鈍化、生活扶助者および失業者の多発による社会保障関係経費の増大、合併を可能にするためにとられた職員の給与の調整措置および合併に際して増設された施設関係職員数の増等による人件費の急増、病院会計・国民健康保険会計等各種特別会計の収支の悪化に伴う繰出金の急増等が要因となって、財政悪化が著しかった。なかでも病院、水道事業の悪化が著しく、これを病院事業についてみると、昭和四一年度の医業費用二三億三、〇八九万円に対し、医業収益は一六億八、五五八万円に過ぎず、同年度末における累積欠損金は一一億六、四〇二万円となっていた。

(2) 昭和四二年三月谷新市長就任後、市では病院および水道事業の再建を図るため、病院事業については従来の市衛生局病院課を改組して新たに病院局を設置して地公企法の全面適用を受けることとしたうえ(水道局は昭和三九年一月一日発足ずみ)、同法四九条一項所定の財政再建計画により右両事業の再建を図る方針を決め、昭和四二年九月二六日市議会に、右両事業につき自治大臣に対し地公企法四九条一項に基づく財政再建を申出ることにつき議決を求める議案および病院局の設置のための条例案等を提案し、一〇月一四日いずれも可決された。これに基づき一一月一日病院局が発足して地公企法の全面的適用を受けることとなり、同日訴外柴田啓次が病院事業の管理者たる病院局長に任命された。そして、同月二一日従来市職に属していた病院関係職員により新たに病院労組が結成された。

(3) 市当局は、病院および水道事業に関する地公企法四九条二項、四三条一項、二項に基づく具体的財政再建計画案を作成したが、病院事業に関する再建計画案の中には支出の節減に関する事項として、次のような職員の労働条件に密接な関連を有すると思料されるものが含まれていた。即ち、(ア)給食業務、清掃業務、警備業務等を昭和四二年末までに民間業者に委託し、それにより職員二六六名を減員する。(ロ)高令職員に対しては、退職勧奨等をする。(ウ)給料表を昭和四二年度中に国家公務員に準じたものに改める。(エ)期末勤勉手当については国家公務員の支給率を上回らないものとする。(オ)特殊勤務手当については現行二四種類のうち一五種類を廃止する。(カ)勤務時間を現行拘束四三時間制を拘束四八時間制に改める。以上により人件費の節減を図ることとされていた。そして、市当局は地公企法四九条二項、四四条一項に基づく、財政再建計画に関する議会の議決を得るため、昭和四二年一二月八日市議会に対し前記内容を含む病院および水道事案についての財政再建計画案を提案し、同月一五日原案のとおり議決された。

(二) 再建計画に対する市職、病院労組の対応

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(1) 市当局は昭和四二年九月一三日市議会衛生水道委員会において、病院局を設置して病院事業につき地公企法の全面適用を受けるようにし、かつ病院および水道事業につき地公企法四九条一項に基づく財政再建の申出を行う方針を表明した。市職ではそれまで市当局において財政再建のため右のような方針が決定されていることを全く知らなかったため、直ちに市当局に対し団体交渉の申入れをした。そして同月二八日市当局から河野衛生局次長外二名が、市職から市職副委員長原告山中外八名が出席し、市当局から右財政再建の目的等について簡単な説明がなされた。

(2) 昭和四二年一一月一五日午前一〇時から同一二時まで具体的財政再建計画案についての市労連と病院局との第一回の団体交渉が行われ、その席で病院局から病院事業に関する財政再建計画案の概要が説明され、病院の単純労務職員二六六名の分限免職による減員計画も明らかにされた。これに対し市労連からは財政状況に関する基礎資料の提示を求めるとともに、二六六名の分限免職については希望退職者の募集、配置転換による解決措置を考慮するよう要請したが、病院局からは右減員計画は既定方針であるとの回答がなされ、市労連は財政再建計画案には断固反対であるとの意見を表明した。なお、病院局は市労連および病院労組との交渉と併行して病院関係職員をその一部の組織構成員として含む北九州市職員労働組合(以下「市職労」という。病院局が設置された後、同組合の病院局関係職員の組織として市職労病院評議会が設置された)とも、財政再建計画案についての交渉をすすめた。次いで病院局と病院労組との間で、同月二九日約二時間交渉がなされ、病院局から再建計画案中の給料表改正の骨子についての説明がなされ、同年一二月二日には結核療養所松寿園の病床閉鎖に伴う配転についての交渉がなされた。同月四日には病院局と病院労組との間で、期末勤勉手当の改正案についての交渉がなされ、その席上病院局として財政再建計画案について組合との交渉によりどの程度譲歩の可能性を有するかについての議論がなされ、また病院局からは同月八日から開かれる市議会の冒頭に財政再建計画案を上程する予定であること、および議会開会中も含め今後も組合との交渉を継続していく旨表明された。さらに市議会上程前の最後の病院局と病院労組との交渉が同月六日行われ、病院局から病院に勤務する単純労務職員の減員および医師、看護婦等の増員計画の説明等がなされた。そして、財政再建計画に関する病院局と病院労組、病院評議会との交渉は格別の実りもなく基本的に対立したまま、同月八日病院事業および水道事業に関する財政再建計画案は市議会に上程されるに至った。

(3) 右の間組合においては、一一月一三日自治労福岡県本部執行委員会において市当局の財政再建計画に対する組合としての対応策が協議された結果、右計画の組合員に及ぼす影響の重大性から現地の組合組織のみでは対処しきれないと判断し、自治労本部に現地闘争本部の設置を要請し、同月二一日自治労本部安養寺書記長を本部長とする現地闘争本部が設置された。右闘争本部には本部長、副本部長、事務局長、事務局次長で構成する企画会議および右のメンバーに市労連傘下の各組合の闘争委員が参加して構成する闘争委員会が置かれ、企画会議が闘争方針等の企画、立案に当り、闘争委員会で最終的な意思が決定される仕組みになっていた。市職、病院労組等の市労連傘下の各組合は、現地闘争本部の設置後は同本部の指揮下に入り、一一月末には右各組合のストライキ指令権も同本部に移譲された。現地闘争本部としては二六六名の分限免職を阻止することを最優先の目標とし、病院局や市各庁舎前での座り込み、八幡・門司病院での超勤拒否闘争等を行っていたが、団体交渉を重ねるうち市および病院局の譲歩を期待することは容易でないと判断し、同月末ころには企画会議でスト実施の方針が検討され、一二月六日の団体交渉後現地闘争本部はスト実施の方針を決定し、翌七日非常事態宣言を発した。そして、病院労組は同月六日福岡県地方労働委員会に対し病院局長を相手方として交渉促進等の調停を申請し、同委員会は同月一三日双方に対し、「①病院再建計画案は二六六名の減員を含む重大なものであって、計画案に関して当事者間に団体交渉が若干回数行われたことは認められるが、交渉中の問題の重要性を勘案すると、その期間、方法、回数などは充分と認めがたい。②病院再建計画案がすでに議会に上程された現時点においても、市側は可能な限りの誠意をもって交渉を続行し、双方が基本的な意見の一致が見出されるよう格段に努められたい。③組合側においては、交渉の成否にかかわることではあるが、平和的解決に努めるようにされたい。」との調停案を示し、病院労組は同日、市および病院局が従来の事実上の交渉拒否の態度を変更し、市議会も次の会期まで議決しないことを前提として右調停案を受諾し、病院局長は翌一四日右調停案を受諾した(なお、病院評議会からも同旨の調停申請がなされ、同内容の調停案が示された)。しかし、当時市および病院当局は、市議会における再建計画案の審議およびその準備のため多忙であったため、調停受諾後同月一五日の市議会の議決に至るまでの間、労使の交渉が持たれたことはなかった。現地闘争本部は右調停案が提示された前日の同月一二日ころ、市議会衛生水道委員会での議決が予定されている同月一四日に市職、市労による始業時から一時間の職場集会を、市議会本会議での議決が予定されている翌一五日に病院労組による門司および八幡病院における二四時間ストを実施することを決定した。一方、市当局は同日市長および市教育委員会名義で各職員に対し、同月一四日および一五日は定められた勤務時刻に出勤して職務を遂行するようにとの職務命令書を交付し、同月一四日には病院職員に対し、翌一五日の勤務につき病院局長名義の同旨の職務命令書が交付された。

2  本件争議行為の状況

(一) 昭和四二年一二月一四日の争議行為

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

一二月一四日は、市労連傘下の市職、市労の組合員が所属する職場において始業時から約一時間の職場離脱が行われた。同日は午前七時過ぎから同一〇時ころまで市役所本庁、清掃事業局、建築局、建設局、門司区役所、若松保健所、教育委員会本庁の各庁舎の出入口に自治労傘下の組合員によるピケが張られ、管理職以外の職員の入庁が阻止された。同日の職場離脱者の数は市長部局がストの対象となった職場の職員総数七、三七九名中一、一六七名(離脱者の職員総数に対する比率一五・八パーセント)、教育委員会関係が総職員数一、五六七名中一四一名(九パーセント)であった。

(二) 昭和四二年一二月一五日の争議行為

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(1) 一二月一五日は午前〇時から二四時間、八幡および門司両病院における診療体制を、原則として日曜、休日と同様の診療体制とするストが行われた(一五日は平日であった)。同日は午前五時ころから同一一時ころまでの間、右両病院の出入口に自治労傘下の組合員によるピケが張られ、当日の診療要員として現地闘争本部が予め配置を予定していない職員の入庁を阻止するとともに、外来患者に対し同日診療を受けないよう説得に当った。このため門司病院では職員総数の三〇・九パーセントに相当する五一名が、八幡病院では職員総数の五〇パーセントに相当する九二名が終日職務を放棄した。また、当日診療を受けた外来患者は、門司病院では通常三四〇名位のものが一〇〇名位、八幡病院では通常三九〇名位のものが六一名であった。

(2) ところで、右病院にけるスト実施に際しては、予め現地闘争本部のメンバーと各病院の責任者との間でスト当日の診療体制についての話合がなされ、組合から各病院当局に対して、休日の診療体制の維持に必要な看護婦は就労させること、ボイラーマン、栄養士および特別食関係の給食調理員はストの対象から除く旨が告げられ、これに応じ病院当局では予め門司病院においては民間業者に六名の配膳要員の確保を委託するとともに、入院患者用の昼の普通食を外部に委託し、八幡病院においては給食業務に従事させるため四名の臨時職員を雇傭したほか、各病院における万一の事態に備え日本赤十字社との間で緊急事態発生の場合の援助要請の折衝をした。右のような措置が予め講じられたため、スト当日の入院患者の診療に関しては格別の支障はなかった。また、外来患者の診療についても、婦長が病院の入り口で問診等により当日の診療を要するかどうかを判断し、その判断にしたがって医師の診療を受けさせる体制がとられたため、格別の混乱は生じなかった。

3  原告らの行為

(一) 原告平田長雄について

(1) 原告平田が本件ストが行われた当時、組合業務に専従し市職執行委員長および病院労組執行委員長ならびに現地闘争本部副本部長の地位にあり、本件各ストの企画、立案に関与したことは、当事者間に争いがない。

(2) 《証拠省略》によれば、原告平田は一二月一四日のストの際には、ストの実施にともなって緊急な措置を要する事態が発生した場合に必要な指示を行うため、市役所本庁地階にある市職組合事務所に待機していたこと、その際同日午前八時二〇分ころ市人事局人事第一課長上田一寿からピケ解除の要請を受け、自分にはその権限はないとしてその要請を拒否したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 《証拠省略》によれば、原告平田は一二月一五日のストの際には、ストの実施にともなう緊急事態の発生に対処するため、前日一四日の夕刻から八幡病院に詰めていたこと、同原告は一五日午前〇時ころ同病院事務局長訴外藤井正輝の所に赴いて、「当局が職員の生首を切るようなむごいことをやるからストで対抗せざるを得ない。」旨表明し、さらに同原告は同日午前五時ころ支援の組合員約二〇名に対しピケの配置につくよう指示したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(4) 本件各ストは集団的労務提供拒否であるから、地公法三七条一項および地公労法一一条一項により禁止された同盟罷業に該当し、原告平田の右(1)ないし(3)の行為は、右同盟罷業を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおったものというべきであり、地公法三七条一項後段および地公労法一一条一項後段に違反する。

(二) 原告山中正人について

(1) 原告山中が、本件争議行為当時組合業務に専従し市職副執行委員長および現地闘争本部の闘争委員の地位にあり、右立場から一二月一四日のスト方針の決定に関与したことは、当事者間に争いがない。

(2) 《証拠省略》によれば、原告山中は一二月一四日のストの際には、市役所本庁地階に置かれた現地闘争本部で待機し、同本部長安養寺の補助者として連絡係の任務に従事していたこと、その際同日午前八時三〇分ころ市人事局人事第一課長上田一寿が他五名位の者と一緒に右闘争本部を訪れ、その場にいた安養寺および原告山中に対しピケを解除するよう申入れたが、同原告らはこれに応じなかったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 原告山中の右行為は、同盟罷業を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおったものというべきであり地公法三七条一項後段に違反する。

(三) 原告渡辺時良について

(1) 原告渡辺が、本件スト当時市職本庁支部長の地位にあったことは、当事者間に争いがない。

(2) 《証拠省略》によれば、原告渡辺は現地闘争本部闘争委員会の闘争委員であり、その立場から一二月一四日のスト方針の決定に関与したこと、同月一二日午前一一時ころおよび翌一三日午後四時四〇分ころ市役所本庁衛生局総務課室内で、総務課職員に対していずれも約一〇分間、病院、水道事業の再建計画に反対しストに参加するよう演説して呼びかけをしたこと、同原告は同月一四日のストの際には始業時間である午前九時から職場を離脱してその職務を放棄したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 原告渡辺の右行為は、同盟罷業を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおり、かつ同盟罷業を行ったものというべきであり、地公法三七条一項前段、後段に違反する。

(四) 原告和田光弘について

(1) 原告和田が、本件スト当時市職本部書記長の地位にあったことは、当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》によれば、原告和田は現地闘争本部闘争委員会の闘争委員であったことが認められる。《証拠判断省略》

右認定の事実に前記二の2の(二)の(3)に認定の現地闘争本部闘争委員会の役割および次項に認定のスト当日に原告和田が遂行した任務等に照らして考えると、原告和田は闘争委員会のメンバーとして、市職の行った本件スト方針の決定に関与したものと認めるのが相当である。右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) 《証拠省略》によれば、原告和田は一二月一四日のストの際には、異常事態が発生した場合に現地闘争本部との連絡をとるため、午前七時ころから同一〇時ころまで市役所本庁舎周辺でトランシーバーを携帯してピケの状況等を監視していたこと、同原告は同日午前九時から午後五時まで七時間、翌一五日午前九時四〇分から午後五時まで六時間二〇分それぞれ職場を離脱してその職務を放棄したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 原告和田の右行為は、前記渡辺と同様地公法三七条一項前段、後段に違反する。

(五) 原告松木幹雄について

(1) 原告松木が、本件スト当時市職本部書記次長の地位にあったことは、当事者間に争いがない。

(2) 《証拠省略》によれば、原告松木は現地闘争本部闘争委員会の闘争委員であり、その立場から一二月一四日のスト方針の決定に関与したこと、一二月一四日のストの際には、原告松木は市役所本庁舎周辺に待機して異常事態が発生した場合に現地闘争本部と連絡をとる役目であったが、同所に待機中の同日午前七時過ぎ同庁舎民生局および宿直室各出入口付近において、自らあるいはピケ要員に指示して、市人事局人事第一課職員厚田武春の入庁を阻止したこと、同原告は同日午前九時から同一〇時まで一時間職場を離脱してその職務を放棄したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 原告松木の右行為は、地公法三七条一項前段、後段に違反する。

(六) 原告藤城吉次郎について

(1) 原告藤城が、本件スト当時市職門司支部長の地位にあったことは、当事者間に争いがない。

(2) 《証拠省略》によれば、原告藤城は現地闘争本部闘争委員会の闘争委員であり、その立場から一二月一四日のスト方針の決定に関与したこと、同日午前九時前ころ門司区役所裏玄関近くの路上で登庁して来る職員に対して、門司職員健康保険会館付属体育館で開かれる市職の勤務時間内職場集会に参加するよう呼びかけ、同日午前九時ころから同九時五五分ころまで行われた右集会においては、闘争経過を報告する等してこれを主宰したこと、同日午前九時から同九時五八分まで職場を離脱してその職務を放棄したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 原告藤城の右行為は、地公法三七条一項前段、後段に違反する。

(七) 原告槇戸恒美について

(1) 原告槇戸が、本件スト当時市職本部執行委員の地位にあったことは、当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》によれば、原告槇戸は現地闘争本部闘争委員会の闘争委員であったことが認められるから、同原告は右闘争委員会のメンバーとして、市職の行った一二月一四日の本件スト方針の決定に関与したものと推認される。右認定に反する原告槇戸恒美本人尋問の結果は原告槇戸の市職における前記役職および前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(2) 《証拠省略》によれば、原告槇戸は一二月一四日のストの際には、同日午前八時三〇分ころから同九時三〇分ころまで若松保健所裏門において、管理職および同日保安要員として配置を予定していた職員以外の職員が入庁するのを阻止するため他の支援労組員とともにピケを張り、同九時ころ同保健所長からピケ解除の要請を受けたがこれに応じなかったこと、同九時過ぎ右裏門近くにいた五、六名の同保健所職員に対し、若松病院で行われていた市職の勤務時間内職場集会の会場へ行くよう呼びかけたこと、同原告は同日午前九時から同九時四六分まで職場を離脱してその職務を放棄したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 原告槇戸の右行為は、地公法三七条一項前段、後段に違反する。

4  地公法三七条一項および地公労法一一条一項の違憲性に関する原告らの主張について

原告らは地公法三七条一項および地公労法一一条一項が憲法二八条に違反する旨主張する。しかし、地公法三七条一項が合憲であることは、最高裁大法廷昭和五一年五月二一日判決(昭和四四年(あ)第一、二七五号、刑集三〇巻五号一、一七八頁)の判示するところでかつ当裁判所も同様に解するものであり、また地公労法一一条一項が合憲であることは、右判決および最高裁大法廷昭和五二年五月四日判決(昭和四四年(あ)第二、五七一号、刑集三一巻三号一八二頁)の趣旨に照らし明らかであるから、原告らの右主張を採用することはできない。

5  地公法三七条および地公労法一一条違反の争議行為と地公法二九条による懲戒処分

原告らは、集団的労働関係における争議行為に対して、個別的労働関係を規律する地公法三〇条以下の義務規定を適用して同法二九条による懲戒処分を行うことはできない旨主張する。しかし、争議行為が集団的行為であるからといって、その集団性のゆえに争議行為参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではないから、地公法三七条および地公労法一一条違反者に対して、地公法三〇条以下の服務規律を適用して同法二九条一項に基づく懲戒処分を行うことは許されるものというべきである(最高裁第三小法廷昭和五三年七月一八日判決、昭和五一年(行ツ)第七号、民集三二巻五号一、〇三〇頁参照)。

したがって、前記3で認定の原告らの各行為は信用失墜行為避止義務を定めた地公法三三条に違反し、また組合専従者である原告平田、同山中を除くその余の各原告らが、前記1の(二)の(3)に判示のように職務に従事するよう命ぜられていたにもかかわらず、同3で認定のようにスト当日職場を離脱してその職務を放棄した行為は、職務命令遵守義務を定めた同法三二条、職務専念義務を定めた同法三五条に違反するものというべきである。

三、次に、原告らの懲戒権濫用の主張につき判断する。

1  地公法は、地方公務員たる職員は勤務条件の維持改善を図ることを目的として職員団体を結成することができるものとし(同法五二条一項、三項)、当局は登録を受けた職員団体から職員の給与、勤務時間、その他の勤務条件に関し適法な交渉の申入れがあった場合には、これに応じなければならないこととしており(同法五五条一項)、また地公労法は、地方公共団体の経営する企業に勤務する職員につき、労働組合を結成できるものとし(同法五条一項)、その労働関係については地公労法のほか原則として労働組合法および労働関係調整法が適用されるものとし(地公労法四条)、労働協約締結権を認めている(同法七条)。右職員団体および労働組合の団体交渉権は、職員団体の場合には労働協約締結権を伴わないものであり、またいずれの場合も争議権を否定されてはいるが、しかし、団体の組織を背景として相手方と対等の立場に立って勤務条件等の改善のために折衝することができる限りにおいて権利として保障されているものであり、地方公共団体の当局も誠実に交渉に応ずべき義務があるものというべきである。

2  ところで、財政再建計画の策定および計画案の市議会への上程等は元来地公法五五条三項の管理運営事項と解せられるが、しかし、前記二の1の(一)の(3)ので認定のように本件財政再建計画案は病院事業に勤務する職員の勤務条件に重大な影響を及ぼす事項が含まれていたのであるから、財政再建計画案のうち勤務条件に関連のある事項が当局と労働組合との団体交渉事項となり、同事項につき当局が団体交渉の義務を負うのは当然のことといわねばならない。そして、前記判示の地方公共団体における労使の団体交渉の意義に照らして考えると、当局において団交義務を尽くしたといえるか否かは、懲戒権の濫用の成否を決する一要素となるものというべく、かつ財政再建計画案が一旦市議会で議決されると、その後の労使交渉が実質上同計画で設定された枠内での事項に限定されざるを得ないことは明らかであるから、再建計画案に関する勤務条件をめぐり誠実な団交義務が尽くされたか否かは、主として市議会議決の時点までにどのような交渉が行われたかによって判断すべきものといわねばならない。

そこで、右見地から市労連、病院労組と当局との間の交渉につきみるに、前記二の1の(二)の(2)で認定のように本件財政再建計画案が市労連に提示され交渉が開始されたのは、市議会の議決の一ヵ月前の昭和四二年一一月一五日であり、市議会議決までにもたれた市労連、病院労組と当局との交渉の回数は合計五回に過ぎない。そして、《証拠省略》によれば、右交渉は当局からの財政再建計画案に含まれている病院職員の分限免職、給料表改正等の説明と当局側に労使交渉により計画の手直しをする意思があるのかどうかをめぐる論議がなされた程度に過ぎないことが認められ、右認定に反する証拠はない。市当局が当時の財政窮迫状態を打開するため本件財政再建計画を急いでいた事情には十分首肯すべき点があり、かつ《証拠省略》によれば、本件財政再建計画は市財政の健全化に寄与したことが認められるが、しかし、本件財政再建計画が分限免職二六六名を含む職員の勤務条件に重大な影響を及ぼす内容を含んでいたことを考慮すると、前記認定のような市労連および病院労組との交渉にみられる当局の態度には、性急に過ぎた面のあることを否定し得ない。

3  右判示の事情に前記二の2で認定の本件争議行為の状況、ことに一二月一四日のストは勤務時間に一時間喰い込む程度であり、かつ同月一五日のストに際しても病院労組として混乱を避けるための諸種の措置をとっていることを考慮するとしても原告らの前記各行為はいずれも前記認定のとおり違法行為であって、原告らの組合における役職、本件争議行為における同人らの役割、その他右行為による結果影響等諸般の事情から判断すると原告らが相応の懲戒処分を受けることはやむを得ないといわねばならない。そこで以上諸般の事情を合わせ考えると、懲戒処分についての懲戒権者の裁量権を考慮してもなお、原告平田に対する本件各処分は社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したものとして違法というべきであるが、その余の原告らに対する本件各処分は裁量権を濫用したものと認めることはできない。

四、よって、原告平田の本訴請求は理由があるからこれを認容し、その余の原告らの本訴請求はいずれも理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾俊一 裁判官 湯地紘一郎 裁判官辻次郎は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 松尾俊一)

〈以下省略〉

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